進学たられば恨み節 

院試の前に学外を見よ,そしてそんなテーマはテーマじゃない(意訳)に続く他山の石(希望)エントリ.当時の状況を今の視点を交えながら思い出してみる.
id:Hashさんに便乗と書いたが,共通点はM1で研究室を出たいと思ったこと位しかなさそうである.

  • 卒研配属前・適当な進路希望

卒研配属2年前の冬.大抵の大学はそうだと思うが,通っていた大学は卒研配属時と卒業時に所定の単位を要求される形式だった.必修を落としていた自分は次の年度で配属されない事,つまりは留年が決まっていた.この年はドロップアウトまっしぐらで,卒業後のイメージも湧かず単位を取るのも気合が入らず,毎朝家は出るものの,大学行かずにコンビニ,ゲーセン.金は無いので見てるだけ.お前はリストラを家族に言い出せないサラリーマンか?大学に着いたら着いたでコンピュータ室で時間を潰す.退学した方がスッキリするか,なんて事を考えていた.こんなレアケースを見せて一般化できる事があるのか?という気が早くもしてきたが,とりあえず話を進めることにする.
卒研配属前年,そんな生活を引きずったある時,大学でWebを巡回中にあるページに出会った.
ほぼ日刊イトイ新聞 - 「マッチ箱の脳」Web版
ニューラルネットワーク,遺伝アルゴリズム.「がんばれ森川君2号」や「アストロノーカ」に使われた技術.ただのマッチが(まあサンプルとして使っているだけなのだが)問題を解いてしまう仕組みに衝撃を受けた.書籍版も買った.同じ頃,コンビニ立ち読みでヒカルの碁を見て囲碁を始めた.そして囲碁や将棋の話題を見ているうちにディープブルー(人間の世界チャンピオンに勝利したチェス専用マシン)のことを知った.「人工知能」.幸い自分は工学部にいる.情報系のある学科にいる.人工知能を研究してみたい.逃した単位を追いかけて,卒研には配属されるところまでこぎつけた.ニューラルネットの応用をやっていると言う研究室を見学させてもらい,ゼミも何度か見学した.もっとも,そのときは何をやっているかよくわからなかった.
並べてみれば簡単で,自分の興味は「頭のいいゲームキャラ.ザラキばっかり使わない奴」とか「将棋や囲碁にディープブルーが出現する日」とか,「エンターテイメント用のエージェント(これでもずいぶんと曖昧である)」に使う技術に対して湧いたものだった.それを『人工知能』と呼んでいた.そんなんだから留年するんだ.しかも進学の動機がヒカルの碁とマッチ箱って.
学部4年の言う『人工知能』なんてバズワードも同然だ.人工知能に限らず,ここは大概のB4に通じる話ではないかと思う.そのテーマにこれから飛び込もうと言うのだから,知らないことだらけで当然.論文を読んだ経験も少ない4年の段階では,背景も,問いも,手続きも,当たり前だが結果もない.修士ともなればそれをバズワードでなくすことが求められるが,しかし院試の時にはまだ求められない.「受かってから卒研の半年で見つければいいよね」なのだろうか.そこに開いていた落とし穴にうっかり落ちてしまう人がいる.自分だ.

  • 卒研配属

3年の終わりに,卒研配属の為に一度目の配属先調整があった.人数が多いので,まずは大まかなグループに分けるのだ.ここで希望者多数→抽選と言うことになって希望グループから外れると,半導体,ロボティクス,光学,などなど遥か彼方の分野へと飛んで行ってしまう(今考えればロボティクスは近いか?自律ロボットが当時注目されていたか定かではないが).そうは言っても留年までして単位ギリギリの身には,成績順で切られないだけまだありがたかった.情報系のグループはわずかに定員を超えたが,抽選で外れることなく情報グループ入り.4年に上がって研究室決めとなった.このグループ内でもセキュリティ,データベース,モバイルコンピューティングなどまだまだ範囲は広く,人工知能を銘打つ所はほとんどない.研究室訪問の時間が設けられてはいたが,『人工知能』(カッコ付きなのはすなわち自分にとっての,と言うこと)が研究できそうに思えたのは数ヶ所.第一希望は前年に見学したラボ,しかし希望者多数で漏れた.配属されたのは機械学習というテーマの研究室.『人工知能』できるかな?と思っていた所には入ることができた.
改めて振り返ると,毎年いくらかの割合で抽選に漏れる学生がいる状況で,こんな広い分野の研究室をまとめて扱うのはどうなんだ.配属前の説明会では「卒研は研究の仕方を学ぶ.配属希望が通らなくても新しい出会いだと思って.研究したい人は院で」と言うような感じの事を言われた気がする.これはこの大学だけの事情だが.
4年前期は卒業必要分の単位集め.就職活動はほとんどせず,院に行くつもりでいた.研究室では決定木,ベイズなどの課題を出されてプログラムを組んだり,「エージェントアプローチ 人工知能」(isbn:4320028783) を輪読したり.楽しかった.楽しいけどさ,指導してよ,テーマの絞込みとか.今振り返ったら全然そんな話題なかった.「研究の仕方」全然掴めないよ.『人工知能』の研究を勘違いしたまま時間は過ぎていった.
夏休み前,指導教官と面談.進路について,そして卒研テーマについて話した.この時点で修士に行きたい事,そして興味について話した.はずだ.「専門外だから,サポートはできない.卒研では時間が足りないと思うよ.修士で改めて考えてみたら」とそんな事を言われたのは覚えているから,話したんだろう.卒研には時間制限がある.院試が終わって半年もすれば仕上げだ.だからこれは正しい指導だったと思う.自分の興味とテーマの兼ね合いを考えるのは当然自分でやるべき事だったのだ.院試は受かった.他の研究室はもちろん,他大学なんて頭になかった.せっかく『人工知能』の研究室に入ったのだから.
卒研は院生の下につく形で,動画のクラスタリングをテーマにすることになった.が,これは2ヶ月くらいで面白くなくなった.詳細は省くが,今振り返っても問いは適当,手法は穴だらけで,結論は応用がさっぱり期待できない.ショボい卒論の作り方にきれいに当てはまっていた.つらい時期だから思い出は恨み言だらけだ.週1のゼミで「画像から必要な情報を抽出するプログラム」の進捗報告が続く.教官からは「精度良くないね,改善できないの?とりあえず動くもの作ろうよ」それだけ?.そもそも題材の画像が蓄積されてない.家庭用のビデオカメラで撮影した映像がちょっとあるだけじゃないか!思い出したら「論文読め」って言われた覚えもないぞ!「専門外のテーマはサポートできない」じゃなかったのか,今もサポートされてないぞ!結局,「とりあえずなんかやりました」というショボい卒論が出来上がった.参考文献5個くらい(しかも先輩の卒論とか)だったような気がする・・・

  • 卒論その後

面談.修士の研究テーマについて.ここでもう一度自分の興味を話した.「僕はその分野に詳しくないから,指導は難しい.2年で終わらない覚悟がいるよ.とりあえずプラン持ってきて」と言われた.あれ?なんか聞いた事あるぞ.「卒研も中途半端だから,対外発表できるくらいにはしようね」とも言われた.ええーっ.
この指導教官は真面目な人だと思う.学生を一人の研究者として扱い,真面目に接していた.ゼミの報告には学会発表の質疑のように真剣な質問を飛ばし,研究テーマの背景,目的,プランなどを曖昧にさせない.研究を進める上で必要なものは手を抜かずに指摘する・・・研究始まってすぐに.先生,一人前に扱ってくれてありがとう.指導はどこ行った?
論文の読み方さえろくに学んでない状況で(それはそれで院生としてダメなのだが)自力でプランを作れと言う.卒研の続きは終わらない.それに打ちのめされて,ますますテーマは形にならない.どうにもならなくなって,とうとう学内の保健センターでカウンセラーのお世話になった.あれ,それはもうちょい後だったか? 重大な出来事のわりに記憶が曖昧だ.

とりあえずここまで.都合の悪い事は忘れてるかもしれないし,「こんな辛い体験も糧にして今冷静に語れるオレ」という合理化が起こっている事はおそらく間違いないが.こんな奴がM1で研究室を去りました.去った後,性懲りもなく別の所行ったんですけどね.

自分のアイデンティティを曲げてまで書いても執筆期間の数ヶ月が辛いだけ(自分の興味があんまりないテーマで卒論を書くことがどれほどつらいことか!)。「○○氏をdisりたい」とか「XXXXの役に立ちたい」とか「とにかく真実が知りたい」とか「純粋に好奇心」とか問題意識はいろいろあるだろうが、自分の問題意識と「絞れるテーマ」、この二つが両立する場所を見つけ出すべし。

「テーマを絞りなさい」という指導は論文をつまらなくする - 女教師ブログ

院を目指す皆さん,その『テーマ』に興味を持ったきっかけ,向き合い続けてください.興味のないテーマで卒論を書いて,それを院でも続けるなんて事になったら,ストレス感じて少しでも机から離れたくなって,意味もなくトイレに何度も立った挙句,尿道炎起こして小便に血が混じっても知らないよ!