「真のパラダイムシフト」を体験した勝ち組
ニコニコ大会議にかこつけて余計な一言を.
パラダイムシフトが起きた瞬間を体験出来た人間が、世界中にどれだけ居ると思う?
ハゲのおっさんから一言(追記2回目有り)
ここにいる.パラダイムシフトは2年前に起きた.
その時代や分野において主流だった(問題を抱えている)古い考え方に代わり(その問題を解決できる)新しい考え方が主流となることを指す。一個人の物の見方が変わることは指さない。
パラダイムシフト -Wikipedia
渦中の「ハゲのおっさん」が体験したのは(少なくともまだ)パラダイムシフトとは呼べない.*1一人のスピーカーに対して,多数の観客からリアルタイムなコメントの雨をあびせる事については,前のエントリ-パッと見で軸が混線している様に見える話 で触れたとおり,今よりもずっと前にWISSで行われてきた事である.それでも,このニコニコ大会議をきっかけに「可視化された感想の,リアルタイムな集合体」を一般市民が体験するのが主流になったならば,パラダイムシフトと呼べるだろう.*2WISSとニコニコでしかこの現象が起こらないようではダメだ.また主流になるまでに時間がかかってもやはりダメだ.WISSの存在が,現象の源流がニコニコでないことを示しているし,今変わらなければ「パラダイムシフトの瞬間」ではなくなってしまう.
真のパラダイムシフトが起きた場所
では,2年前に起きた真のパラダイムシフトとはなにか.それは「コンピュータ囲碁」である.
ここに解説があるので詳細は省くが,GNUGo,彩,Many Face of Goといった2006年以前の強い囲碁プログラムは,数万から数十万行にわたるコードで記述された,職人芸のような評価関数を武器にして,長年の間トップを走り続けていた.その他のプログラムにおいても評価関数を作りこむという作業は必須であり,大会などでは「何で今の手打ったの?」「この部分で得できるって判断したみたい.評価関数甘かったー」などという会話が飛び交っていた.ところが,国際的な大会であるComputer Olympiadで,パラダイムシフトの瞬間が訪れた.「適当な手でいいから何万回も対局をシミュレーションして,その勝率を評価する」というモンテカルロ法をベースにしたプログラム,CrazyStoneが2006年に9路(9×9)部門で頂点に立った.「盤が広すぎて探索しきれない,ヒューリスティックが最重要」という認識が当たり前だったコンピュータ囲碁界で,職人芸クソくらえ,ブルートフォース万歳*3というモンテカルロ碁の勝利は大きな衝撃を与え,2007年のOlymiad9路部門はモンテカルロ碁が上位を独占,参加プログラムのほとんどがモンテカルロ碁という状況に一変した.2006年の結果と2007年の結果を見ても分かるとおり,マシンパワーの暴力は「使用したハードウェア」を記録として残すように変更させる程のインパクトを残した.国内でもモンテカルロの猛威は吹き荒れ,日本最強,職人芸の雄であった彩さえもがあっさりとモンテカルロ法を取り入れたのである.いまや大会での会話は「今勝率どれくらい?」である.2006年を境にコンピュータ囲碁界の風景は完全に変わった.
惜しい,実に惜しい
ここからさらにコジツケでいこう.「ハゲのおっさん」は追記にて
自分としては良い『紛れの一手』が打てたのではないかな、と思っています。
ハゲのおっさんから一言(追記2回目有り)
と書いている.紛れの一手とは将棋でよく使われる言葉である.おそらく彼は将棋を指すのだろう.将棋の世界でも,数年前にBonanzaというソフトが「全ての手について調べる」という常識破りの方法で頂点に立ち,プロ棋士のNo.1である竜王と公式に勝負するまでに至った.もし「ハゲのおっさん」がもう少し視野を広げてコンピュータ将棋の世界を覗いていたら.コンピュータ将棋とコンピュータ囲碁の世界は近い.*4さらに視野を広げてコンピュータ囲碁の世界を覗いていたら.彼は「真のパラダイムシフト」に立会い,その前後の世界がいかに違うかを体験できたのに.もはやシフト前の風景を見る事はできない.惜しい.実に惜しい.