パッと見で軸が混線している様に見える話

友人がニコニコ大会議に行って来たの話 - ● SPOTWRITE 
あのー、それ、普通にいじめなんですけど - Thirのはてな日記
ほか,ニコニコ大会議についてのエントリが盛り上がっていた(今も続いている?)のを後から追いかけて感じた事.

最初の発話に引きずられて生じる議論のねじれ

衝撃を受けた。すごい。すごいことだ。

あまりにも斬新すぎるコミュニケーションの現場だ!!

友人がニコニコ大会議に行って来たの話 - ● SPOTWRITE 

というid:magoshinさんの記述に対して,id:thirさんが

これは「斬新すぎるコミュニケーションの現場」ではない。むしろ「残酷すぎるコミュニケーションの現場」である

あのー、それ、普通にいじめなんですけど - Thirのはてな日記

と反論している.この反論自体は自然な形なのだが,後から急いで追いかける者にとって2つの議題が混同してしまう要因を含んでいると感じた(僕はそう感じてしまった).thirさんの反論は表面上,「斬新かどうか」と「残酷(=いじめ)かどうか」が相反するものとして示されている.斬新さと残酷さの2軸を組み合わせる事で,少なくとも4通りの立場が現れてくるはず(実際にはそれぞれがハッキリ二分できないため,4通りでは足りないかもしれない)だが,ここには「斬新でなければ残酷である,残酷でなければ斬新である」という命題を生む余地がある.ざっと見たところ,多くのエントリは「いじめかそうでないか」を問題にしているが,上の命題に引きずられると,ニコニコ大会議は斬新だと思う人が「いじめではない」という立場を支持するようなバイアスがかかるのではないだろうか.当然逆の立場もあって,これをいじめだと思う人はニコニコ大会議が斬新であるとは認めないようにバイアスがかかる.
で,自分の考えについてもこのバイアスがかかる立場にいるので厄介だ.いじめかどうかについては,いじめの要素が強い,少なくとも「今回の個別のケースはいじめでないとしても,いじめの構図が成立している」と思う.そして斬新かどうかについては,「斬新ではない」という意見である.

斬新さの要件は何で,ニコニコ大会議にそれがあるか

一応,反対する根拠はある.自分の解釈として,ニコニコ動画の斬新さは,「実際には同時でないユーザーのアクセスやコメントが,あたかも同時であるかのように感じる」という部分にある.ところが,今回の会議では

ひろゆきが質疑応答するとき、ステージの左右のスクリーンに、ストリーミング生中継してるニコ動画面が出てるんだよ、コメントとかもリアルタイムで表示されて。そんで、質問のときに、太ってる人が喋ったら、その人が見てる目の前で、『ピザwwwww』とか可哀想なことが流れてて」

友人がニコニコ大会議に行って来たの話 - ● SPOTWRITE 

と,「本当にアクセスが同時であり,それゆえ動画に映った本人にも伝わる」ということがキーポイントになっている.これは,ニコニコ動画の斬新さと真っ向から対立するものであって,これなら「Webカメラを使ったネット会議」+「リアルタイムのチャットシステム」で実現できてしまう.観客の即応性や盛り上がりを重視するなら,文字と音の役割を逆転させても良い.発言者用の画像付きチャットと,(音声を変更してプライバシーに配慮した)観客用ネット会議システムという具合に.*1 *2プロ野球の応援ではないが,多数の観客が騒いでいても,ある一人が発した声は必ずしもかき消されない.
もうひとつ,発言者と観客のインタラクションという点では,WISSというワークショップですでに行われているという事を聞いて感心したことがある.伝聞であるため詳しい内容について調べようとしたら,しっかりと言及しているエントリを発見した.
ニコニコ大会議が浮き彫りにしたニコニコ動画の実世界拡張における課題 - A Successful Failure
ここで実際に行われているように,今回の状況を実現するのにニコニコ動画そのものは必須要件ではない.このため,ニコニコ大会議(というよりは,その一部である元エントリの出来事)について僕は「ニコニコが生み出した斬新さ」は感じなかった.ただし,WISSのシステムが参加者に対してのみ開かれているのに対して,ニコニコ大会議は全世界に開かれているという点など,別の点に斬新さはあるかもしれない.
繰り返しになるが,このような理由があっても,このエントリは「ニコニコ大会議で起きたことはいじめの構図に当てはまる」という意見を見て,それに触発された事から始まっているので,斬新と言いたくないバイアスから逃れる事はできない.このあたりは,トンデモとかニセ科学についての対話と共通する構図が今回の話にあるのではないかということも感じた.

*1:これは発言者にとっても,観客側の感情などをよりリアルに感じる効果がある.口調から「いじり」であると感じられたかもしれないし,逆により現実感を伴う罵倒として発言者に届いたかもしれない

*2:罵倒の方向に働いた場合を想像するとおそろしい.なんて事を「斬新でない理由」の項に書くことも「いじめ」という意見を強調したいバイアスの産物か