Real Education はトンデモ本だと思います

On Off and Beyond: 書評:Real Education-人口の半分は平均以下
http://www.chikawatanabe.com/blog/2009/01/realeducation.html
について,amazonを見たら3,000円で「9〜11日で発送」となっていたので,批判の為に3千円はいやだなあ&こりゃ乗り遅れると思い,横着して読まずに書きます.後で修正するかもしれない.

「真実」じゃない

著者曰く、本書のメッセージは4つの真実で、それは「能力には差がある」「子供の半分は平均以下」(アメリカ的にはタブー発言!!)「大学進学率は高すぎる」「アメリカの将来は学力の高い子供をいかに教育するかにかかっている」と。

書評:Real Education-人口の半分は平均以下 | On Off and Beyond

いきなりですが,

  • 「能力には差がある」「子供の半分は平均以下」は”事実”
  • 「大学進学率は高すぎる」「アメリカの将来は学力の高い子供をいかに教育するかにかかっている」は”主張”

これを「4つの真実」と名付けてメッセージにしている本は疑ってかからなきゃ,と思います.
「4つの真実」がメッセージであるからには,”事実”である前者を根拠として後者の”主張”を行っているのだと思いますが・・・
「能力には差がある」について本文でどのように書かれているかわかりませんが,「そりゃそうだ」というしかありません.これがメッセージである,というところには「同一」「公平」「平等」あたりを混同させようとする意図があるのではないかと推測します.つまり,「それぞれの人間は『同一』ではない」とわざわざ言う事によって,「公平」「平等」を否定するという目論見です.
そして,「子供の半分は平均以下」については,エントリの内容からしてIQのことを言っているのでしょうが,どんな方法で測定したのか.最悪なのは

DIQを算出する方法の検査では、

(個人の得点 − 同じ年齢集団の平均) ÷([15分の1または16分の1] × 同じ年齢集団の標準偏差) + 100

で算出される。ビネー式の場合は16分の1、ウェクスラー式の場合は15分の1を使用する。

知能指数 - Wikipedia

のDIQだった場合.個人の得点を,「ベルカーブに従うように」=「半分は平均以下になるように」わざわざ加工した値がこのDIQで,自分でそうなるように得点をいじっておいて「半分は平均以下!これは事実!」とか言い出すのは悪質です.
これだと,IQ120以上の人だけを集めてもう一度テストをしたら,その内の半分はIQ100以下という事になってしまう,というような数値なので,IQを「誰を相手に,どうやって測ったか」がとても大事.

横着したためにこの点について全く検討できないわけですが,この本で示されたIQがどのように計測されたものか,出典を知りたい.誰か横着に付き合って確認してくれる人いないかな?

あ、あと、「アメリカはIQが重視されている」「アメリカより日本が学歴社会」てなコメントもありましたが、どちらも正しくないです。日本だと小学校の低学年でIQテストすることが多いのではないかと思うがアメリカでは一般的ではないし。

Real Education続きーさらに身も蓋もない話 | On Off and Beyond

えー?ますます怪しいです.じゃあどこでIQ調べたのさ.肝心のIQを調査する過程がものすごく偏ってるんじゃないの?

「結論はまとも」だから何?

でも結論は至極まともです。

書評:Real Education-人口の半分は平均以下 | On Off and Beyond

# 大学は国をリードする可能性のあるトップレベルの知能を持った子供をちゃんと教育する場所であるべき
# 「国をリードする可能性のあるトップレベルの知能」は大雑把に言ってIQ120以上。これはアメリカでは全体の10% (実際のアメリカの大学進学率は50%)
# このトップ層を対象として、大学は「賢人となるための倫理/徳」「正しい判断を行うための教養」を、よりぴっちり教育すべき
# 一方、それ以下の子供たちについては、職業訓練を推奨すべし

書評:Real Education-人口の半分は平均以下 | On Off and Beyond

「大学進学率は高すぎる」「アメリカの将来は学力の高い子供をいかに教育するかにかかっている」という事自体は主張として不自然ではありませんので,「結論はまとも」です.だからトンデモじゃないって,そんなことない.根拠がダメであれば全体としてはダメ.
博士課程まで行ってる僕はこれに賛同しといた方が(といってもアメリカの話だしIQ120を超えた覚えもないけど)なんか恩恵がありそうだけど,それでもこの主張はダメと言わなければならないと思う.

さらに邪推

ここからは完全に原著を読まずに考える邪推.

というわけで、延々一章をかけて「平均以下とはこれくらい勉強に付いて行けていないということである」と説明しまくる。

書評:Real Education-人口の半分は平均以下 | On Off and Beyond

僕はここで,「ベルカーブ」で受けた批判に対して(まともに反論するのではなく)逃げるために隠した事があるのではないかと予測する.それは
「勉強ができない平均以下」はどこの誰か?
という事.教師のクオリティや学校の設備と学力に相関がないというなら,それはつまり「義務教育レベルをちゃんと受けていれば」とんでもなくできない子供はグンと減るのではないのだろうか,「とんでもなくできない子」はまともに学校にも通えない状況を強いられているんじゃないか?という事を疑うべきではないか.
何らかのテストで学力やら何やらを測ろうというなら,テストを受ける環境が整っているかどうかに注意しなきゃならない.元エントリにもある「ベルカーブ批判」の代表的な人物,グールドは『人間の測りまちがい』(『人間の測り間違い』から訂正. 23:50)の中で,アメリカにくる移民に対して,「長い船旅で疲れているところに抜き打ちで,しかも慣れない英語で問題を出されて」IQを測定された例などを挙げている.
例に挙がっている文章題ができないのは,「文章の意味が理解できない=その程度の言語教育さえ受けてこられなかった」可能性などもある.
この本はいろいろな批判を想定して先回りで説明をしているそうだが,

  • 人種,貧困等に対する冷遇のような社会的要因によって
  • 「まともに学校に通う」事さえ困難な「ファミリーバックグラウンド」に置かれる事によって
  • そもそもテストを受けられる環境にさえ達する事ができず
  • 学力やIQが低いとみなされるのではないか

という批判にはどのように答えているのだろうか.